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2018年03月09日

着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔 公立学校が挑む教育改革(5)千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長



着任4カ月で200の課題を洗い出した改革者の横顔
公立学校が挑む教育改革(5
千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12128

 新宿区教育委員会で、行政を巻き込んでの一大改革を推し進めていった工藤勇一氏。その次なる舞台が千代田区立麹町中学校だった。2014(平成26)年に校長に就任するやいなや、矢継ぎ早に学校改革のための施策を実行していく。「公立の名門校」としてブランドを確立していた麹町中学校だが、工藤氏の目には無数の課題が映っていた。そのとき、職員室では何が起きていたのか。

着任4カ月で200の課題を洗い出し、事業計画を立てる

 東京に生まれ育った人なら、「番町・麹町・日比谷・東大」というフレーズを聞いたことがあるかもしれない。千代田区立番町小学校、千代田区立麹町中学校、そして東京都立日比谷高校を経由して東京大学へと至る、「国公立エリートコース」を指す言葉だ。

 2017年に創立70年を迎えた麹町中学校が公立名門校と認識されるようになって久しい。かつてはありとあらゆる方法で越境入学を試みる保護者が急増し、最盛期には1700人を超える生徒数を誇ったという。現在では区の規定が厳しくなり、「両親が共働きで、いずれかの職場が学区域内にある」という条件を満たさなければ越境入学はできない。ほぼ地元の生徒たちで構成されている全校生徒約400人弱の学校だ。

 2014年4月に校長となった工藤氏は、即座にこの学校の課題を洗い出した。大きなものから小さなものまで、6月までに160近い課題が見つかった。7月、夏休みに入るとすぐに全教職員を集め、全体研修を行った。

 「この学校の課題だと思うことを書いてほしい。不満でも構わない」

 教員に個別に考えてもらい、グループワークなどを経て約40の課題を集約。そこに工藤氏が見つけた160の課題を加えて、解決すべき事柄は200を超えた。優先順位をつけ、事業計画を作る。ここまで就任から4カ月。改革を急いだのは、行政に関わってきた経験値があったからだ。

「区の予算要求は概ね毎年11月頃には形になります。校長として教育委員会と折衝し、必要な予算を認めてもらうためには、夏頃までに準備を終えておく必要があるのです」

生徒とともに過ごす時間以外は、なるべく削減したい

 特別な予算を必要としない改善にはすぐに着手した。その一つが「教職員の会議」だ。教職員は毎朝、職員室で朝の打ち合わせをする。着任当初の工藤氏は延々と続く全体打ち合わせの光景を目の当たりにして、辟易していた。その打ち合わせには明確なアジェンダ(議題)がなく、ただの報告会になっており、早く終わらせるための工夫もなかった。

 そこで工藤氏は職員室内にある副校長席の後ろにホワイトボードを置き、会議のルールを定めた。

・赤字で書いたものは生徒に伝えなければいけないこと
・青字で書いたものは教員の間で共有しなければいけないこと
・ホワイトボードに書いてあることについて打ち合わせで話す必要はない
・これらは各自が責任を持って確認する
・その他、口頭で伝えたいことがあれば見出しと担当者名を書いておく

会議時間短縮のために活用されているホワイトボード




 「このルールを徹底したら、それまでは5分も10分もかかっていた朝の打ち合わせを1分程度に短縮できました。今朝などは10秒で終わりましたよ。教員の始業時間は8時ですが、生徒は8時15分から登校します。この間に『10分のロス』があると、早く教室に行って子どもたちの様子を見てあげることもできない。教員は生徒とともに過ごす時間を何よりも大切にするべきなので、他の時間はなるべく削減したいと考えています」

 改善の効果は月2回の定例職員会議にもおよんだ。定例会議のスケジュールは「14:30〜15:30」。しかし現実は、毎回予定終了時間をオーバー。「始まりも終わりも押す」のが当たり前だったという。現在の職員会議は月1回、30分程度。「全体に周知しなければいけないこと以外は会議で話さない」というルールを徹底し、教職員が使うグループウェア「校務支援システム」の掲示板などを活用して、会議に頼らない円滑な情報共有を進めている。

「横割り」組織の論理を壊し、「全員担任制」という新たな挑戦へ

 麹町中学校で副校長を務める宮森巖(みやもり・いわお)氏は、着任9年目のベテラン。理科教諭として赴任し、校務管理や若手教員への指導にあたる主任教諭・主幹教諭を経て、先代校長の時代に副校長となった。工藤氏の改革による変化を最もよく知る人物の一人だ。

 千代田区立麹町中学校副校長・宮森巖氏
 「以前は、『雑務はすべて副校長がやるもの』というおかしな雰囲気がありましたね。職員室の電話が鳴っても、教職員は誰も出ないんです。私がすぐに出られないときは何コールも響いていました」
 現在では、職員室の電話が鳴れば、誰かが必ず3コール以内に対応する。これは工藤氏の着任後に始まったビジネスマナー研修の成果だ。「電話は3コール以内に出る」「『麹町中学校の◯◯です』ときちんと名乗って対応する」。一般企業の新人研修のようだが、麹町中学校では50代のベテラン教員であれ新卒の事務職員であれ、新たに赴任した人は必ずこのカリキュラムを受けることになっている。
 トップが改革者となったことで、教員同士の関係性にも変化が生じた。
 「これは他の学校にも見られることかもしれませんが、かつての麹町中学校の教員は学年ごとのセクションに分かれて、学年主任を中心に強固なチームを作っていました。これ自体は悪いことではないのですが、行き過ぎると全体の連携を阻害することにもつながります。教員同士にも情があるので、『まずは担任を盛り立てよう』とか『学年主任の顔を立てよう』とか、組織の論理で動いてしまうこともある。しかし本来は、学年主任や担任の立場にこだわらず、一人ひとりの生徒にとって最も教育効果を発揮できる教員を前面に出していくべきです。工藤校長は、そんな『当たり前のこと』を実践させました」
 以前は、生徒に何か問題が起きても、別の学年の教員が関わることはほとんどなかった。しかし現在では違う学年の教員もどんどん首を突っ込む。縦割りならぬ「横割り」組織の論理を、工藤氏が良い意味で壊したからだ。その生徒の問題と向き合うために、誰が最も適任なのかをフラットに考えて対応させる。宮森氏は「工藤校長が来てから、教員間のコミュニケーションは格段に濃くなった」と感じているという。
 教員の意識が着実に変わっていく様子を受けて、工藤氏はさらに大きな改革を準備している。2018年度から、麹町中学校では従来の常識であった「固定担任制」を廃止し、「全員担任制」を採用することが決定したのだ。生徒と教員との信頼関係を一層深め、生徒一人ひとりにより質の高い指導・支援を行っていくことがねらいだ。
 これによって、朝の会や道徳、総合的な学習の時間などを含め、従来は固定の担任教諭が担っていたすべての業務に、状況に応じてもっとも適切と考えられる教員が適宜配置されることとなる。生徒は「今、最も頼りたい先生に相談する」というアクションをシンプルに実行することが可能。面談などは生徒や保護者の希望を優先して決定していくという。
 こうした取り組みも、既存の組織運営にとらわれることなく、「生徒と保護者にとって最も質の高い教育体制を実現する」という目的を最優先して手段を考える工藤氏ならでは。この春からスタートする新たな試みを、本連載でも追いかけていきたいと考えている。

優秀な教員の「採用・育成」にも力を入れる

 組織が大きく変わったのは、工藤氏の考えに賛同し、志を同じくする教員が増えているからに他ならない。東京都教育委員会が実施する「公立小中学校教員公募」の制度を利用して、目指す学校像を実現するための「リクルーティング」にも力を入れている。非常勤職員を除くと麹町中学校の正規の教員数は約25名程度だが、4年間でその4分の3が入れ替わった。

「工藤校長も私も優秀な教員を常に探しています。公募制度で集まるのを待っているだけでなく、教員が集まる研究会などにも頻繁に顔を出して、『これは』と思う教員には積極的に声をかけています」

 コミュニケーションの能力と技術に長け、「君のことを本気で考えているんだよ」という思いを生徒に心から伝えられる誠意がある人。その上で、教科における専門性が高ければ何より。そんなターゲットを設定して、校長とともに宮森氏は日々、優秀な人材の発掘に努めているのだという。

 採用活動だけでなく、人材育成にも余念がない。

 私が学年主任を務めていた頃は、何か問題が起きても校長や副校長に相談することはほとんどありませんでした。いつも自分が『最後の砦』だったんです。しかし現在の麹町中学校では、教員が『こんな方法でやりたいんですが、どう思いますか?』と直接校長にアドバイスを求める場面が頻繁に見られます。工藤校長の指導技術がずば抜けていること、そしてその背中を積極的に見せていることが大きいのではないかと思っています」
 生徒に何かしらの問題が生じて、保護者との間でトラブルを抱えてしまうこともある。そんなときに工藤氏は「保護者と語り合えるんだから、トラブルはチャンスだよ」と教員に語るのだという。日頃はなかなかじっくり話す時間を持てない保護者が、わざわざ学校へ足を運んでくれる。保護者との信頼関係を強化するためには、またとない機会というわけだ。
 問題を解決するだけではなく、以前にも増して強固な信頼関係を築き、生徒のためにより良い環境を作る。そのためには校長自身が保護者と向かい合い、徹底的に会話する。「まずやってみせる」という姿勢もまた、工藤氏の特徴だという。
 子どもが第一、次に保護者、そして教員。この優先順位を明確にして、問題解決にあたる教員へは「子どもたちのためになっているかを第一に考えろ」と言い続ける。そんな校長の存在が、一人ひとりの教員の行動を大きく変えたのだった。

対立は悪じゃない、無理に仲良くしなくたっていい
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11213

先生たちとはもう、校則の話をするのはやめよう
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11613

教育委員会の都合は最後に考えよう
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12106