2017年12月07日

エリート中高年が陥りやすい「ジジイ」の“生態”とは





エリート中高年が陥りやすい「ジジイ」の“生態”とは

https://mainichi.jp/premier/business/articles/20171113/biz/00m/010/013000c


「他人をバカにしたがる男たち」著者・河合薫さんに聞く(1)
 目上にはこびたりおもねったりする一方、部下たちには「前例がない」「責任は取れるのか」などが口癖になっている人があなたの周囲にはいないだろうか。そうした人を「ジジイ」と指摘し、その“生態”や彼らの不安の心理を暴く「他人をバカにしたがる男たち」(日本経済新聞出版社)が今年8月の出版から好調な売れ行きだ。著者で健康社会学を研究する河合薫さんに聞いた。4回に分けてお届けする。【経済プレミア編集部・田中学】
 ──「ジジイ」という言葉は強烈ですが、どんな人ですか。
 ◆河合薫さん
 自己保身にたけ、組織内で得た権力を「自分のため」に使う人です。いわゆるエリートの中高年が陥りやすいのですが、男性の「おじさん」を指しているわけではありません。女性でも若者でも「ジジイ的な人」はいます。自分の属性や社会的地位を自分の価値だと勘違いし、地位が脅かされるのではないかと不安になった途端、心の中のジジイが表に出てしまうんです。
 最近の例で言えば、小池百合子・東京都知事。もともとジジイ的な人でしたが、永田町の「ジジイの壁」から飛び出し、都知事に挑みました。当選後、東京五輪の会場見直し問題などではジジイたちと戦うチャレンジャーでした。ところが、先日の衆院選ではジジイぶりが復活。「排除発言」などは、人を見下し暴言を吐く「ジジイ」そのものです。
 会社内では管理職ポストの数も減り、年下に追い越されたり、女性が要職に抜てきされたりと、自分の存在価値に不安を持つ中高年が増えてきました。人は強い不安を感じると保身に走ります。不安がジジイ化を加速させ、職場の「ジジイの壁」はどんどん厚くなる。部下たちが新しいことをやろうとしても邪魔ばかりします。

 ──どんな振る舞いをするのでしょうか。
 ◆他人を性別や学歴、所属する会社などの属性や肩書だけで判断します。自分より「下」と判断した途端、とことんバカにする。「俺は偉いんだぞ!」と言いたくて仕方ないんです。自分の脅威となるできる社員には、「前例がない」「責任は誰が取るんだ」と潰しにかかります。他人を引きずり下ろして、自分の属性にしがみつく。そうやって安心を得ているんです。
 またジジイの壁に張り付く「粘土層」の人もいます。彼らの保身術は群衆に紛れて息を潜めること。粘土層は「勝ち組の下っ端でいいからしがみついていたい」という気持ちが強い。成功も失敗もしないようにひたすら目立たないようにしているんです。

 ──そんな人が上司だと部下はつらいです。
 ◆いっそのことずっと息を潜めてくれていればいいのですが、時折余計なことをするからやっかいです。ジジイは自分が正しいことをやっていると信じています。定年も延長されて、階級組織の上の方にはジジイたちが多くいるので、ジジイの壁はどんどん厚くなっています。とにかく厚い。

ジジイにならないためには
 ──ジジイにならないためにはどうすべきですか?
 ◆自分で限界を設けないこと。「今」に固執せず、「今は通過点」と考えることです。人は現状に不安を感じると「今ある目先のものを失いたくない」と保身に走り、前に進まなくなります。でも自分の可能性を信じて「前に踏み出してみる」と、余計な不安はなくなります。不安の反対は安心ではない。一歩前に踏み出すことです。
 健康社会学ではこれを「人格的成長」と呼んでいます。これはさまざまな困難に対処するためのリソース(資源)の一つです。他にもリソースにはいろいろあり、それらを一つ一つ手に入れていくことで「ジジイ化」は避けられます。
 本来、学歴や役職、年収などの属性もリソースです。でも属性を自分の価値と勘違いしたり、リソースとしての属性の使い方を間違えたりすると危険です。本書では、タクシー運転手などに横柄な態度を取る人やコンビニで横暴な振る舞いをする人たちの事例を取り上げ、他人のふり見て我がふりを直すことも目的にしています。きついタイトルですが、おじさん、おばさんへの応援歌のつもりで書きました。
 またジジイになる理由を理解してもらうために、「老害度チェックリスト」などを紹介しています。読者は「自分もそうなるのでは」と心がザワザワすると思います。

 ──まず読者自身が「ジジイ」になっていないかを確認するんですね。
 ◆そうですね。読者の心がザワザワしたところで不安を解消していく方法を示しています。まずは今の自分を受け入れる「自己受容」が大切です。そして今見ている会社組織などの世界がいかに小さなもので、自分で限界さえ設けなければ可能性が広がっていくことを「人格的成長」などのキーワードとともに説明しています。

 ──「他人をバカにしたがる男たち」を書いたきっかけは何でしょうか。
 ◆河合薫さん 2008年のリーマン・ショック以降に時代や人々の空気感、雰囲気がすごく変わったと感じています。働く人たち600人超にインタビューをしてきてからわかったことです。これは私が専門とする個々人がよりよく働き生きていく環境を探る健康社会学のフィールドワークの一環です。

 --リーマン・ショックの前後で何が変わりました?
 ◆リーマン・ショックの時は世界中が暗闇に包まれたかのようでした。その中でインタビューした人たちは、あいまいで漠然とした不安を感じるようになっていました。
 生きていくこと、働いていくことが個々人の問題として意識され始めました。それまでは景気が悪かったり、会社の業績が悪かったりしても会社や組織の問題と捉える方が多かった。しかし「希望退職」という名の絶望のリストラ策が行われたり、追い出し部屋、年越し派遣村などが話題になったりしました。
 「勝ち組、負け組」といった言葉が広く使われました。それに対して「価値観や人生はいろいろだよ」「人それぞれだよね」などと言う人もいましたが、本心では勝ち組の下っ端でもいいからしがみついていたいという人が多い。
 エリートと言われる人の多くは自分が「勝ち組」の中に入っているので、そこから落ちるのが怖い。漠然とした将来への不安が保身に走る人を量産したんです。

 --負け組になるのだけは嫌だという不安ですね。
 ◆はい、そうです。特に40代の人は組織の中で今後、自分がどれくらいまで出世や昇進できるかといったことが見えてきます。本来、この時期は「中期キャリアの危機」と呼ばれ、自分のキャリアを見つめ直す大切な時期。ここで保身に走り始めると「ジジイ」まっしぐらです。
社内の人間関係がギスギスしている

 --この10年ほどで「ジジイ」になる人が増えてきたんですか。
 ◆以前からジジイはいました。ただ年功序列や終身雇用がしっかりしていたころは組織の上層にあるジジイたちの門、いわば「ジジイゲート」が多くの中高年に開かれていました。ポストも数多くあるし、子会社や関連会社に出向する道もあり権限も持てた。役職定年もなく、定年後は悠々自適な生活が待っていました。
 組織自体に余裕があったので、ジジイゲートに入れなくても社内に中高年の居場所があったんです。窓際族も許されていましたし、「油を売るおじさん社員」もいましたよね。彼らは、若手社員が上司とひともんちゃくしたり、顧客との間でトラブルになったりしたときにはまるでお父さんのように助けてくれた。普段は何をしているかわからない中高年が上司と若手社員を仲裁したり、顧客とのトラブルを解決したりしてくれたんです。
 ところが今は年功序列や終身雇用が崩れ、ポストは減り、「ジジイゲート」は狭き門となった。社内の人間関係はギスギスし、みんな余裕がないので上司と部下でよい関係を築くのも難しくなってきています。

 --成果主義などを導入する企業も増えました。
 ◆そうですね。ところが実際にはうまくいっていない。成果主義だからといって若手が一生懸命に結果を出そうとすると、上司から「なんだお前は。全然経験もないからダメだ」とか「組織の論理がわかっていない」と理不尽なことを言われる。
 「新しい企画を出せ」と言われて率先してやってみると、よくわからない理由でボツになる。さらに昇進して管理職会議などの場で意見を言うと「偉そうなことを言うな」と受け入れられない。ジジイたちがことごとく「できる若手」を潰すんです。若手に活躍の場を与えることは、自分の居場所を奪われること。その脅威に耐えられないおじさんが「ジジイ化」するんです。
 今、組織の中では「やれ、イノベーションを起こせ」「女性活用、女性活躍だ」などと叫ばれているでしょうが、ジジイの壁がある限りうまく作用することはありません。

「70点でいい」ジジイを脱した“万年課長”の心持ち


 --あいまいな漠然とした不安を抑え、「ジジイ」にならないようにするためにはどうすればよいですか。
 ◆河合薫さん まず今の自分を受け入れる「自己受容」が大切です。そのためには自分を俯瞰(ふかん)する力が欠かせません。私がインタビューした「マンネン課長さん」の例でお話ししましょう。

 --長年という意味で「マンネン(万年)」ですね。
 ◆はい、そうです。マンネン課長さんは当時40代後半で、同期の中でも評価はいい方で出世ラインに乗っていると思っていました。しかしある時「後輩たちと同じポジションで長年課長にとどまっている」と気づいたんです。
 自分には先がない、これ以上の出世は無理だと感じ、1年ほどは心の中が荒れていたそうです。課長という肩書にしがみついて、仕事では失敗もしなければ成功もしないようにし、部下たちの育成もやる気が起こりませんでした。

 --転職するなど会社を飛び出すといった選択肢はなかったのですか。
 ◆それも考えたそうですが、現実には厳しい。40代後半の自分を「今」と同じような待遇で雇ってくれる会社はない。今の会社にしがみつくしかないと思ったんです。

 --そんなマンネン課長さんが変わったと?
 ◆はい。ある時、部下の一人が顧客とトラブルを起こした際に、「それなら電話してやるよ」と何気なく対応して簡単に解決したんです。すると、その部下から「本当にありがとうございます。あんなことをしてくれたのは課長が初めてです」というメールが届いた。「部下から感謝されたことがとにかくうれしかった」と言っていました。
 これが彼が変わるきっかけでした。絶好調のときだったら、こうした小さなうれしさや喜びは見過ごしたはずです。でも当時の彼は自分の存在意義を見失っていました。会社での居場所もなくし、将来も真っ暗。暗い密室の中にいるような状態だったからこそ、部下からのメールに感激した。光の筋が差し込んだように感じたのだと思います。

部下とのやりとりを1冊のノートに
 --その後はどうなったのでしょうか。
 ◆「自分にもまだできることがある」と気づいた彼は、「部下が喜ぶような仕事をしよう」と気持ちを新たにしました。ありのままの自分を受け入れたんです。これが自己受容です。彼は積極的に部下たちに話しかけ、それを1冊のノートに記録し、机の上に開いて置いておくようにした。自分のやっていることを「見える化」したんです。
 当然そのノートに気づいた部下たちは「これなんですか?」と聞いてくる。それがまた会話のきっかけになり、部下との距離感も縮まっていきました。「見える化」は部下たちが、もし自分と同じような立場になったときに参考になればという思いもありました。
 階層社会の椅子取りゲームに敗れてもやることはある。「マンネン課長」というちょっとかっこ悪い自分をさらけ出したことで、逆に部下たちから信頼され、チームの雰囲気もよくなっていったそうです。それは彼の自信になり、前に踏み出す勇気が出た。「自分にもっとできることがある」と考えて転職。他の会社で管理職を務めています。
 転職後にインタビューした時、「満点ではなく70点を目指すようになった」と言っていました。そうするとやる気も出るし、仕事が楽しいそうです。70点で満足しているわけでなく、足りない30点があるから次に進める。前に進む力になっているんです。

 --自分を俯瞰することができ、自分のものさしを大切にしているのですね。
 ◆そうですね。自分のものさしを持てれば、肩書や学歴、会社の大きさなどに縛られることもなくなります。保身に走る必要もないので、ジジイにもならない。
 マンネン課長さんは自身の経験を通じて、「人格的成長」というリソース(資源)を手に入れ、自分をサポートしてくれる部下も得ました。部下をサポートするつもりが、気づくと部下が自分の応援団になっていたんです。心の距離感の近い他者は、何ごとにも勝るリソースです。

「成人の8割が40代以上」日本は中高年活躍が不可欠

 --インタビュー1回目で「他人をバカにしたがる男たち」は中高年のおじさん、おばさんへの応援歌だと言っていました。
 ◆河合薫さん はい、だっておじさんやおばさんががんばらないことには日本の未来はありません。2020年には成人人口の10人に8人が40代以上です。女性活用や女性活躍もいいけど、おじさんやおばさんに活躍してもらわなければなりませんよね。
 そもそも企業は、45歳を過ぎたら一律にお荷物扱いで使えないという視点に立っていますが、世界中の文献をどれだけ探してもそれを裏付ける証拠はない。逆に50代、60代の人たちを雇用した結果、生産性が向上し業績が伸びた会社はたくさんあります。
中高年は経験をベースに能力を高められる

 --具体的には?
 ◆日本では、仁丹を製造する森下仁丹が今年、「第四新卒」の採用活動を行ったことが話題になりました。主に50代の人材をターゲットにしています。
 米国では、ステンレス製の特殊部品などのメーカー、ヴァイタニードル社(マサチューセッツ州)の事例があります。同社は人手不足で人材募集をしたのですが、若者が集まらなかった。そこで「中高年でもいいから」と採用した60代以上のシニアたちが、いい意味で期待を裏切った。彼らは実にいい仕事をして、業績に貢献したんです。それ以降、積極的に高齢者を雇用しています。
 若い人にとっては「たまたま就職した会社」ですが、60歳以上の彼らには「人生最後の仕事」になる可能性が高い。最後のご奉公とばかりに一生懸命に働き、積極的に学び、互いにサポートし合って会社のためにがんばったんです。

 --仕事にかける思いや経験は大切だと。
 ◆はい。人生経験は汎用(はんよう)性がある。飛行機のパイロットの研修に関する興味深い実証研究があります。パイロットの重要な能力の一つ「危機回避能力」のトレーニングを行い、20代、30代、50代(元パイロット)の習得度合いを測りました。
 するとスタート時点では20代、30代の方がスキルが向上し高い能力を習得しましたが、研修期間をある程度過ぎると50代の能力が急激に高まり若手を追い越したんです。中高年は時間はかかるものの、経験をベースに能力を高められることがわかったんです。
役職定年では中高年の経験を生かせない

 --中高年の持つ経験をうまく活用していくべきだということですね。
 ◆そうですね。これまで培ってきた人脈も活用できれば、組織にプラスの影響をもたらしますよね。企業側にはぜひ中高年の経験を生かす方法を探ってもらいたいです。
 ただ企業側の一番の問題はコストでしょう。現在もっとも悪いパターンは、「給料を下げる=閑職に回す」になっていることです。役職定年などがまさにそうですね。「この先どんなにがんばっても給料が1円も上がらないんだよ」と嘆く人がたくさんいます。
 ベースの給料は減るかもしれないけど、ボーナスが少しでも上がる余地や仕組みを作っておく必要があるのではないでしょうか。ボーナスが難しいのであれば、長期休暇や海外旅行券などの報酬でもいいかもしれません。中高年の経験や能力を活用していこうとする仕掛けができていくといいですよね。

女性の紅一点は男性たちの結束を強めるばかり
 --中高年の活躍が大事なことはわかりましたが、やはり今後は女性が活躍できることも重要だと思います。
 ◆はい、もちろんそうです。ただ現状では、例えば役員会に一人だけ女性がいる紅一点のケースが多いでしょう。それでは男性たちの結束を強めるばかりでむしろマイナスの影響が出かねません。組織内では男性と女性の比率が6対4になると、性差の壁を越え「その人」を評価し、認めあえるようになるという研究があります。
 会社ではないのですが、大阪府島本町議会は町議の数が男女半々です。そうなってから慣例的に行われていたことがどんどん減っていきました。例えば、議員に配られていた弁当は廃止され、食糧費は約9割も削減されました。
 男社会では「当たり前」だったことが女性たちには不思議で仕方がない。女性たちが声を上げたことで、男性たちも「おかしいことはおかしい」と口にできるようになった。ジジイの壁が崩壊したんですね。町議会自体が活発になったそうです。

河合薫さん略歴
 河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。東京大学、早稲田大学、長岡技術科学大学非常勤講師を歴任。早稲田大学招聘研究員。専門は健康社会学、キャリア心理学。SOC(ストレス対処力)、キャリア発達などをテーマに調査研究を行う。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に「考える力を鍛える『穴あけ』勉強法」など、多数。


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