2017年05月30日

命を守るはずの病院で、命へのハラスメントが起こっている

https://news.yahoo.co.jp/byline/osakabesayaka/20170523-00071221/

 福岡県男女共同参画センター、あすばるの館長、松田美幸さん( https://www.facebook.com/miyuki.macri )の投稿からです。
 以下、松田館長の投稿です。
 命を守る病院、未来の宝を育てる学校や保育園で働く人が安心して働けない状況。患者さんや児童・生徒のことを思うが故にノーと言い難い職場。真面目すぎて、一番身近な人を支えたりかばったりできないなんて辛いこと、もうやめよう。
Sayaka Osakabeさん( https://www.facebook.com/profile.php?id=100005562856989 )のメッセージ、たくさんの人に届きますように。そして、医療現場や学校で辛い思いをされている方々に、「自分を大切にする」ことは、こどもたちや患者さんのためにもなるということを。

 以下、記事です。
●先日、私のもとにこんな内容の手紙が届いた。

 ××大学付属病院で看護師に対して日常的に行われているパワハラ、マタハラの実態について知って欲しく手紙を書いた。現在、××大学付属病院で働く妊婦の看護師は、母子ともに危険な状態にさらされながら業務を行っている。
 病棟責任者は妊婦の看護師に軽症な患者の受け持ちをさせていると思っているようだが、軽症であるとはいえ母子感染の危険のある多剤耐性菌患者*1や結核患者の受け持ちをさせられる。また、レントゲンの介助や自身では動けない患者の車いすやベットへの移乗をさせられる。
 切迫流産で入院し職務困難で休職を余儀なくされた看護師や、お腹の張りを抑える薬を飲みながら働く看護師、流産した看護師もいる。また、職場からマタハラされないようにするため、妊娠していることを出来る限り隠して働く看護師もいる。特に、ICUやHCU*2では妊婦検診のための休暇を申請すると、看護師長に「スタッフが少ない現状でよく休みが取れるね」「自分で勝手に子どもを作っておいて無責任だ」などと嫌味を言われる。つわりが酷く休みたくても「勤続年数の分しか有給は使えない」と言われる。
 病院内には匿名で意見を投書したり、第三者機関にハラスメントを相談する窓口はあるが、投書箱の近くにはしっかりとカメラが設置されていて、誰が投書したか分かる仕組みになっている。第三者機関も病院側に誰が報告したか伝えていて、意見を言おうものなら酷い仕打ちが待っている。
 産休明けに戻ってきた看護師の多くは「あなたがこの病棟に来て何ができるの」「子育てしながら病棟の仕事なんて出来るわけがない」と暴言とプレッシャーを掛けられた挙句、配置転換されている。看護師長の上の看護部長も「妊婦は使えない」と豪語している。
 現在、看護師の数が足りずサービス残業が常態化しており、超過勤務を申請しても突き返される。そして、妊娠している看護師や若い看護師など弱い立場のスタッフに仕事が押し付けられている。
 女性が多い職場だからこそ理解されず、××大学付属病院で働く看護師がこのような劣悪な環境におかれている現状を理解していただければと。どうか私たちを助けてください。

※看護師の管理職:看護主任→看護師長→看護部長
※1:多剤耐性菌とは、多くの抗菌薬(抗生剤)がきかなくなった細菌のこと。
※2:HCU(High Care Unit)は準集中治療室、集中管理病棟、重症患者病棟で、高度で緊急を要する医療を行うための病室。 ICUよりは軽症な患者を収容する。

●看護師さんが受けるマタハラの内容が酷い

 この手紙には、病院名と管理職たちの名前が赤裸々に書かれていた。「どうか助けてください」の言葉に胸が締め付けられる。
 マタハラの被害相談を受ける中で、病院の看護師さんが受けるマタハラの内容があまりに酷いと感じていた。今までも他にこんな被害事例があった。
 第三子を妊娠したと看護師長に伝えると、「共に働く看護師やスタッフに妊娠したことで迷惑をかけるため一人一人に謝れ」と言われ、「妊娠して申し訳ありません」と一人一人に謝罪させられた。業務後に狭い部屋へ3時間程入れられ、 「どうするの?子どもが3人もいるのだからもういいじゃないの?」「戻る場所なんてない。妊娠してたら何も出来ないのだから、患者の搬送ばかりしてたら」などと言われ続けた。看護師長の対応はあまりに酷いとその上の上司である看護部長に相談にいくと、「謝罪して当然」と言われ、今度は「妊娠してすみません。以後、妊娠しないよう気を付けます」と反省文まで書かされた。

 また別の被害事例では、
 大学病院で夜勤を免除してもらえず、休憩なしの夜勤をした後に流産した。でも、病院からは「10週に満たない流産は遺伝子の問題だから」と、流産した翌日も夜勤をさせられた。不妊治療をしていたので夜勤を免除して欲しいと言っても免除してもらえず、結局退職。その後、転職した老人ホームで妊娠し、再びマタハラを受けた。老人ホームの看護部長からは「育休後、もう一人子持ちの看護師がいるので、二人子持ちはきつい。ここに戻れるかわからない」と言われ、「お金の問題もあるから働き続けたい」と交渉すると「冷暖房がなくて生活してる家もある」と受け入れてもらえず、この職場も退職することになった。

 また別の被害事例では、
 つわりで吐いてうがいをしていたら、看護主任に、「吐いているなんて気持ち悪いから、仕事辞めたらどうなんだ?」「重いものを持ったり、みんなと同じことが出来ないなら、辞めてくれない?いてもらわなくていいわ」と言われた。勤務については、「勤務内容を減らすと、周りにしわ寄せがきてみんなが迷惑してる」と言われた。労働局雇用均等室に相談に行き、そこでもらったパンフレットを看護主任の上司である看護師長に見せると「看護主任は妊娠したから辞めろと言った訳じゃなく、頭に血が上ったんでしょう。労働局に訴えて医院側に監査が入ったら、職員全員でこちらの主張を言って、あなたに不利益な証言をして、あなたを困らせてあげます。そんなことになったら、母体にも良くないから、よく考えなさい」と言われた。看護師長は「マタハラではないし、いじめでもない」と言う。

●長時間労働の職場でハラスメントが横行

 私が2015年3月に発表したマタハラ被害調査では、マタハラ被害を受けた女性を職種別にみると、一般事務が約13%、医療・福祉介護サービスが約12%、教師・講師(保育園・幼稚園含む)が約11%、広告、編集・制作、WEBなどが約12%となっていて、医療介護の現場や学校、広告系など長時間労働の職場でマタハラが多いことが分かった。特に医療介護の現場は、慢性的な人手不足と夜勤を含めた長時間労働で、人が抜けることを良しとしない環境がマタハラをよんでいる。加害者側が辛辣な言葉を吐いてしまうのも、加害者側もストレスでいっぱいなのかもしれない。(だからといって許されることではないが。)
 今年1月から施行されたマタハラ防止措置義務には、「相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」とある。ハラスメントを相談することでより酷い仕打ちを受けるなど、本来はあってはならない。

 参考:企業が講ずべきマタハラ防止措置義務

●人手不足・多様性の対策が出来ている病院はココが違う!業務をマニュアルに落とし標準化、他部署の仕事もできるように!
 福岡県北九州市にある芳野病院さんは、ワーク・ライフ・バランス革命を成功し、医療業界ではほとんどいない、ひと桁代の離職率を達成している。最初の産育休取得者は、百数十人規模の内の6人だったため、それほど問題にはならず臨時で人を雇用していたところが、従業者全体の10~15%となると、臨時の採用だけでも相当の手続き量になり、現場でも新しい人を教育せねばならず、病院がパンクしてしまった。各部署から「人が足りない。補充をしてくれ」と要望が来るが、退職者が出て補充するという体質そのものを見直さないといけないと考えた。そこで、退職者を出さないように、欠員が出たとしても、現場で柔軟に対応できるようにした。
 まずはマニュアルを標準化し、他の部署の仕事でもできるようにした。看護部は当時6部署あり、自分の部署だけで完結する仕事のやり方をしていたが、部署を横断した仕事が出来るように洗い出して、多能工に活躍できる人材を育成すれば、欠員が出た部署内の問題を、余力がある部署の人間でカバーできるようになる。
 最初は部署を2つ程度の単位でまとめることから始めたが、今は病院の全領域を横断して仕事できるようになっている。時間はかかったそうだが、効果的だ。また、臨時の人材を採用するよりは、ベテランの方に応援してもらう方が、質が高く仕事も早い。
それぞれの部署の専門性が必要な仕事をどうカバーするのかという問題が残るが、専門性が必要な部分と、そうでない部分を分けることがポイントとのこと。そうすることで、放射線技師などが、専門性の高い仕事に集中できることにもなるという。
 今回手紙が届いた大規模な大学付属の病院と、地域医療を担う中小規模の病院では単純な比較はできない。しかしながら、人材の使い捨てのような考え方のままでは、労働人口が減少していく中、一定数の人員で同じサービス量・質を保つことはできない。オーバーワークのブラック病院では、医療ミスが発生しやすいというニュースも出ている。厚労省は長時間労働が疑われる企業名を公表したが、医療介護や学校なども含めて取り締まることを検討していってもらいたい。

5月22日配信記事:医師オーバーワーク「ブラック病院」は医療ミス発生しやすい
芳野病院事例の出典:小酒部さやか著書「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」

小酒部さやか
株式会社 natural rights 代表取締役
2014年7月自身の経験からマタハラ問題に取り組むためNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rights(自然な権利)となるよう日々活動を行っている。


Posted by 飯野健二 at 19:32│Comments(0)
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